12月7日

八合の米を炊いたご飯を椀に盛り上げる
笠を頭にミノ姿のエマハマ

 桜川市は、平成十七年、岩瀬町、大和村、真壁町が合併した新しい市。常陸三山と呼ばれる信仰の山々、筑波山、足尾山、加波山の麓に田畑が広がる自然豊かなところである。

 大飯とは、八合の米を炊いたご飯を、椀の上に盛り上げたもの。焼き秋刀魚、大根や人参の煮付け、ナマス、味噌汁、漬物などを菜にして食べる。豊作と健康を神に感謝する祭りで、酒もたっぷり用意される。

 飽食の時代にはピンとこないが、一昔前は招かれなかった大勢の村人が集まってきて、当事者をうらやましげに見守ったことだろう。

 当屋の座敷に氏神社、鹿島神社の御神霊を迎えての神事がすむと、村人が膳につき、会食が始まる。大飯を食べれば無病息災とあって、全員小皿に分けて食べ始める。焼き秋刀魚は何匹でもお代わり自由。酒も自由。話が大いに弾んだ小一時間後、余興が始まる。

 笠を頭にミノ姿のエマハマと呼ぶ魚売りが登場。腰に大きな煙草入れ、笹の葉をかぶせた魚箱を背負い、大きなわらじばきで、そろりそろりと座敷の中央に進み出たが、口上を述べる前にはきなれぬわらじに足がもつれて、すてんと転び、一同大笑い。秋刀魚を魚箱から取り出して、方言むき出しで村人に売り始める。村人が冷やかす。大根のキセルでおもむろに一服、先に人参の赤で火がついている。煙草入れに「火の用心」と書いてある。続いて桐の大きなマラ棒を首に吊した男が現れる。子孫繁栄の祈りが込められて笑いの中に祭りは終わった。

 当屋は六十年に一回まわってくると言う。この日寸劇の主役を演じた当屋の主は、「一生に一度の晴れ舞台だからな」と無事祭りを終えた笑顔がうれしそうであった。



【アクセス】
JR水戸線岩瀬駅下車、タクシー約15分
茨城県桜川市下泉 本郷