8月16日
ホッホッホーと奇声をあげながら、鉄棒を手にした赤鬼、黒鬼が舞台を飛び跳ね、三角の白布を額につけた亡者を追い回す。エンマ大王の命で、偶生神が鏡を亡者の顔に突きつけ、「改めて見候ところ、シャバ国中の大悪人なり」と声を張り上げる。鬼どもは亡者に飛びかかり舞台から連れ去る。信心深い村人には恐ろしげな設定である。
鬼来迎(きらいごう)は村人によって演じられる仏教劇である。村のたたずまいは、木立の多い森に囲まれた、稲田が広がる純農村。寺の境内には土葬の墓地があり、竹筒の花がみずみずしい。
寺の記録によれば、鎌倉初期のころ、薩摩の国の禅僧石屋(せきおく)が衆生済度の旅の途中、虫生に立ち寄り仮寝した。そこで新仏になったばかりの十七歳の娘が、地獄の鬼に責められている夢を見る。それを墓参に来た父親に話すと、父親は自分の悪行を悔い、娘の菩提を弔うために、広済寺を建立した。すると突然、寺の庭に仮面が降ってきたと言う。これが仮面劇の始まりである。
今は本堂での施餓鬼の法要で始まる。やがて鐃?を叩くジャランジャランという音で本堂前の庭に用意された仮設舞台で村人の仏教劇が始まる。
いかめしいエンマ大王、偶生神に続いて、恐ろしいアバタ仮面の奪衣婆が現れると、村人が幼子を抱いて奪衣婆に差し出して抱いてもらう。虫封じになるとかで、幼子は恐ろしがるが、子の無病息災を祈る親が何人も続く。賽の河原の場面では、川原で遊ぶ子らを観音菩薩が鬼から救い出す一幕もある。
【アクセス】
JR総武本線横芝駅下車、車で約15分(徒歩では30分)
千葉県山武郡横芝光町虫生 広済寺